自然が育んだ日本人のリスク観(後半)
2021.03.10
奇しくも2050年に向けた一つの菅政権長期目標宣言の年にコロナ禍が世界を覆いつくした。人類が今まで共生してきたウイルスの逆襲ともいえる禍が始まった。変異種のウイルスとワクチン開発競争の勝敗に人類の未来が託されているのかと感じる。国家的危機というより人類の危機という方が適切である。多くの国民はわが国がワクチン製造力を実質持たないことに驚いたことと思う。これは我が国が類例の無いくらい長きに亘って戦後の平和を享受した結果と言わざるを得ない。リスクヘッジという言葉は投資家に留まっている。冷戦終結で脅威は核から明らかに生物化学兵器に替り、ワクチンの重要性が高まった。我が国でも衝撃的な地下鉄サリン事件が発生したが6年後の米国9.11事件によるテロ国家問題にかき消されてしまった。我が国では、戦争の様な人為的被害でも、自然災害を乗り越えてきたように被災に順応して前へ進まなければならない事情があるのかも知れない。戦後の驚異的な復興は正に自然脅威への順応性という文化的特徴による側面を見逃してはならない。我が国には毎年忘れず訪れる台風や地震災害を記憶の中心に置かず、被災を克服するすべが存在する。和の精神が尊ばれ、忘却は美徳であり、全てを水に流す文化が日本人の感性を作り上げたとも思われる。自然は大きな災害をもたらすが同時に豊かな恵みをもたらすという考え方が伝承されてきたのかも知れない。世界でも稀にみる「和を持って尊し 」「海洋民族の柔軟性」など究極の善人志向を底流理念に持つ刑法や「攻撃しない前提」の平和憲法も理屈ではなく日本人の自然観、つまり自然との付き合い方から育まれたのではないだろうか。
ワクチン開発はこれまでの日本文化の域を超えたグローバルな戦略的国家事業である。気候変動による自然災害の激甚化は自然現象のみでは説明できなくなった。温暖化と共に日本文化の根幹をなす自然環境が大きく変貌した。我々生存圏研究所が貢献すべき基礎研究は、2050年の未来を予測した冷静で科学的な超長期戦略の策定に今まさに求められている局面ではないだろうか。狭小なわが国が持続可能な発展を限られた空間(圏)で行うため、今こそ殆ど未利用なわが国のEEZ(排他的経済水域)の利用促進を官民で推進すべきではないかと思う。2030年はグローバルコモンズまたは地球システムの転換点であることを我々は意識せねばならない。
海洋インバースダム協会代表理事会長 石川容平